京都府南部に位置する宇治茶の一大産地「和束町(わづかちょう)」。町のどこにいても茶畑が見えることから、桃源郷ならぬ「茶源郷」と呼ばれています。今回は、この茶畑の景観を楽しむガイド付きの「茶源郷プライベートプチツアー」に参加。和束町の自然も満喫でき、さらに歴史も知ることができる素敵なツアーでした。
本日のガイドさんは…
本日のガイドさんは観光交流事業スタッフの谷本満知子さん。和束町出身の谷本さんは京都や東京でも働いた後、やはり自然豊かな和束町が良いとUターンされた方。ゆえに和束町の魅力をたくさん知っているので、どんなツアーになるのか楽しみです。
奈良時代の人々も行き来した和束町の道
ツアーの所要時間は約1時間半。事前に予約をし、町の中心的存在の「和束茶カフェ」前でガイドさんと待ち合わせをします。
カフェを出ると、まずは向かいにある活道ヶ丘公園(いくじがおかこうえん)へ。それにしても活道(いくじ)とは面白い名前ですね。
「活道というのは、その昔、恭仁京があった木津川から、紫香楽宮があった滋賀県の信楽へ行く道の名前だそうです。この辺りにその道が通っていたそうですよ」とのこと。
そんなに古い名前だったのですか!
公園入り口にある「活道ヶ丘公園」と書かれた石碑の下には、奈良時代の歌人・大伴家持(おおとものやかもち)の
我が大王 天(あめ)知らさむと思わねば おほにぞ見ける 和豆香杣山
—わが大君である安積親王が、天界をお治めになるとは思いもしなかったので、気にもとめずに見ていました、わづかの杣山をー
という歌が刻んであります。
“我が大王”とは17歳という若さで死去した聖武天皇の第五皇子・安積親王(あさかしんのう)のこと。家持は、この道をとても愛していた親王を思って詠んだと言われ、万葉集にも収められています。
後ろを振り向くと、地元の人から「太鼓山」の名で愛されている安積親王陵墓がありました。奈良時代の人々がこの辺りを行き来していたかと思うと、なんだか和束町が違う景色に見えてきました。
800余年続く和束町のお茶づくり
さて、奈良時代に思いを馳せたところで、茶畑へ向かいましょう。それにしても和束町は、どこを見渡しても山なりに茶畑が広がっているんですね。それゆえ和束町の茶畑は“山なり茶畑”と呼ばれています。
ところで和束町では、いつ頃からお茶の栽培がされていたのでしょうか。
「お茶が作られるようになったのは、鎌倉時代。約800年も昔のことなんですよ」と谷本さん。
そんなに古くからお茶が作られていたとは驚きです。
和束町では最初から平地ではなく山でお茶が栽培されました。お茶の種が植えられたのは町の北にそびえる鷲峰山(じゅぶさん)の山麓。鷲峰山は奈良の大峰山とならぶ二大霊峰で、山中には小角(えんのおずぬ)が開き、聖武天皇が平城京の鬼門を護るために建てたという鷲峰山金胎寺(じゅうぶざん こんたいじ)があります。
この山の麓に、和束町のお隣・木津川にある海住山寺の高僧・慈心上人が明恵上人(※)より譲り受けた茶の種子を蒔いたのが始まりといわれています。
※明恵上人は師匠・栄西禅師が中国から持ち帰った茶の種子を譲り受け、京都市の栂尾にある自身の高山寺で栽培。効能と共にお茶の栽培を広めた高僧。
山なりに広がる茶畑
そのような歴史を聞きながら地元の人しかしらないような道を進むと、目の前に茶畑が広がりました! 山の斜面に美しい畝が続き、お茶の葉が青々と茂っています。
とても美しい景色ですが、こんなにも急斜面での茶摘みはさぞ大変でしょうね。
「とても重労働です。大型機械は使えないので、このような小さな機械を使って2人がかりで一畝(うね)ずつお茶を摘んでいきます」
なるほど。畝の上と下に立って機械を動かしていくんですね。
そうそう、茶畑を見る度にずっと気になっていたのが畑の中に立つ送風機。あれは何をしているのでしょうか。
「防霜(ぼうそう)ファンといって霜でお茶の葉が枯れないようにする扇風機です」
寒くなると放射冷却により地表が冷えて霜が発生するので防霜ファンを使い、地上6~7m辺りにいる温かい空気を地表に吹き付け、逆に地表の冷気を上に飛ばして茶畑を温めるのだそうです。
「特に新芽がでる春先の霜は大敵で、霜が発生しそうな日は前日、町中にサイレンを流して霜が出ることを知らせるんですよ」
これは、お茶の町ならではの設備ですね!
訪れた日は3月だったので、まだ田んぼに水は張られていませんでしたが、谷本さんによると田植え後の景観は、田んぼと茶畑のコントラストが見事なんですって。見てみたいな~。
和束町では4月下旬に1番茶、6月下旬に2番茶を摘み、秋に秋番茶といってほうじ茶などにするお茶を摘みます。ゆえに茶農家さんは茶摘みと田植えの時期が重ならないように、田植えを4月下旬に行い、稲刈りは9月初旬にされるのだとか。これもお茶処ならではですね。
この小さな木はお茶の苗。お茶の木の樹齢は100年以上になりますが、製品とするためには50年に1回、植え替えが行われるそうです。植え替え後の5年ぐらいは養木のためにお茶が取れないそうで、これは生産計画が大事ですね。
おや、こんなところに「弥勒摩崖仏」の道案内看板が。「これから、見にに行きますよ」と谷本さん。やったー!
和束町の弥勒摩崖仏は有名ですものね。
少し歩くだけで、先ほどまでのどかな茶畑の風景から一転。美しい渓流が現れました。
間もなく和束川を覗き込むように立つ、弥勒摩崖仏に到着。地元の人たちからは「長井の弥勒さん」の名で親しまれているのだとか。
約6mの岸壁に掘られた姿は壮観。右側に正安2(1300)年4月の銘が彫られており、鎌倉後期の作とされています。ふっくらとしたお顔が美しですね。
ここから出発地である和束茶カフェの方へ戻っていきます。
行きに通った、ただただ山なり茶畑が広がる風景も圧巻ですが、山なり茶畑の中に民家が立ち並ぶ国道近くの景色も素敵です。
京都府内の茶生産量の約半分を生産する和束町は1300世帯のうち300世帯が茶農家なのだとか。その暮らしと生業が結びついた茶畑の景観が素晴らしいと、京都府景観資産の登録第1号に認定。また2015年には「日本茶800年の歴史散歩」として日本遺産にも登録されました。
美味しい和束茶とお菓子を味わう
景色とともに和束町や茶業の話を満喫した後は、活道ヶ丘公園にある「てらす和豆香」へ。谷本さんに和束茶を淹れていたき、和束町にある和菓子屋さん謹製の茶団子をいただきました。なんて贅沢な時間なのでしょう。
ここでツアーは終了。出発地点の「和束茶カフェ」はすぐ側。帰りに和束茶やスイーツを買うことができるので、ぜひ立ち寄ってくださいね。
いかがでしたでしょうか。他にも町の歴史やお茶に関する興味深い話をたくさん伺ったのですが、それは参加された時のお楽しみに!
そして帰りに何羽かのキジに出合いました。和束町の町の鳥なんですって。いいことありそうです。
みなさまもぜひ、プライベートツアーに参加してみてくださいね。
■■INFORMATION■■
一般財団法人 和束町活性化センター
京都府相楽郡和束町白栖大狭間35
TEL 0774-78-3396(9:00~17:00)
茶源郷プライベートプチツアー
最少催行人数 2名~
要予約(ツアー催行の2日前まで)
料金:3300円/1人
所要時間:90分
季節により茶畑景観ウォーキングを茶摘み体験に変更可能
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