明治から昭和の初期にかけて建てられた近代建築が多く残る京都。現在は文化施設や宿泊施設などさまざまに活用され、建築を楽しむことはもちろん、そこならではの体験ができるのも人気の理由です。
京都市太秦にあるガラス・金唐革工房「チェリデザイン」(旧徳力彦之助邸)もそのひとつ。一体、どんな場所なのでしょうか?
※記事中の情報・金額はすべて2025年7月時点・税込表記です。
住宅街にたたずむチューダー様式建築
地下鉄東西線・太秦天神川駅から徒歩10分。閑静な住宅街を進むと、突如現れるのがこちらの洋館。ガラス・金唐革工房「チェリデザイン」です。
1937(昭和12)年に竣工し、現在は国の指定有形文化財建築に登録されているこの建物。英国のチューダー様式(15、16世紀に英国で確立した建築様式)から成り、ここだけ静けさをまとったような、独特の雰囲気が漂います。
扉を開けて中に進むと目の前に飛び込んでくるのが、重厚感ある階段やステンドグラスです。
マントルピースや柱、手すりなど、建物の至るところに使われている意匠や調度品は、英国の豪華客船で使われていたものを先代が買い付けたのだそう。
あの有名な「タイタニック号」を造ったホワイトスターライン社による客船で、120年経った今も褪せることのない魅力を放ちます。
2階の1室はそうした調度品が揃えられており、まるで違う時代にタイムスリップしたよう……! アメリカで買い付けたガラス製品やランプなどのアンティーク品も並んでおり、購入することもできます。
先代のユニークさが伺える室内
今回案内してくださったのは、2代目にあたる徳力竜生さん。父・彦之助さんと、母・康乃さんから受け継ぎ、ここを住居兼アトリエとして暮らしています。
この建物を建てた彦之助さんとは、どのような人だったのでしょうか?
「とにかく、いろんなことをやっていた人でした。卵の殻を大量に用いた作品をつくったり、好物のメロンの皮を使ってハンドバッグ(写真)をつくって売ったり。当時大阪に到着し、破棄されることになった豪華客船のことを知り、そこから調度品などを購入してきたようです」
画像の右奥にある女性像が彦之助さんによる作品です。
当時高価だった卵の殻を背景にふんだんに用いたほか、首飾りには本物のパールが埋め込まれているそうです。
ルーツは500年前!「金唐革」とは?
先代の彦之助さんは「金唐革」の作家としても知られています。
金唐革とは、500年ほど前、ヨーロッパの国々の教会の壁紙などで使われていた皮革工芸の技法のひとつ。日本では明治時代以降、ヨーロッパから流通するようになり、シガレットケースなどプロダクトにつくり直して愛用されたそうです。
「今はあまり馴染みのないものですが、年配の方だと知っている人も多いですよ」と竜生さん。
画像はチェリデザインで生み出された金唐革。同じ絵でも色によって表情が変わります。
まずはなめし革の上に、特殊な塗料で合金箔を貼り付け。そこにさまざまな文様が描かれた型をプレスすると、絵が浮かび上がってきます。出来上がったものに彩色をし、完成。文字で書くと簡単に聞こえますが、金唐革はルーツを持つヨーロッパでさえ途絶えていた、幻の技法だったそうです。
彦之助さんは、その技法を復元したい一心で研究にあたったそう。技法を確実なものにすると、夫婦そろって金唐革を生かした新たな作品を制作。よく見ると、建物内にはたくさんの作品がかかっています。
金唐革の技法による作品。建物の一部には、こぢんまりとしたギャラリーもありました。
アトリエでステンドグラスづくりに挑戦
ものづくりをする両親を間近で見てきたこともあり、自身も海外でアートや工芸を学んだという竜生さん。父と母が残した金唐革の技法継承はもちろん、ガラス工芸の作家としても活動されています。建物内には竜生さんが制作したガラス工芸品もたくさん点在しています。
アトリエとして使用している工房を開放し、ガラス工芸のワークショップを開催しているチェリデザイン。今回わたしは、ステンドグラスづくりに挑戦してみました!
まずはサンプルを見ながら、つくりたい形、使いたいガラス選びます。ブルー、グリーン、レッド、イエローと、輸入ガラスはどれも色鮮やか。
組み合わせに悩んでいると「実は一番値段の高い色のガラスは……」など、知られざるガラスにまつわる小ネタも教えてくださいました。
形とガラスが決まったら切り込みを入れ、ペンチではさみながら引くようにすると、綺麗に切ることができました。この切れ味は癖になりそう……。次は電動のやすりを使い、形を整えていきます。
アメリカで製造されていた貴重な機械を使ったやすり体験も。ガラスの切断面をなめらかにし、形を整えていきます。
整え終わったら「一番大事な工程」という、銅のテープを周囲にまいていきます。綺麗に均等に巻くことが綺麗な仕上がりには欠かせないそう。
手先をいかに上手く使えるかが肝ですが、作業そのものは簡単で、修学旅行生が体験に来ることも多いのだとか。
いよいよ仕上げの工程。はんだコテを使い、テープ同士をつなげるように接合していきます。
はんだを熔かしたり、固めたりと自在に操りながらも、綺麗につなげるのはなかなか至難の技。
プロの腕に助けていただきながら、ひし形のペンダントトップが完成しました!
できたものは紐を通してペンダントにしたり、キーホルダーチェーンをつけたりできます。
見本のような綺麗な形にできず残念でしたが「整っていないほうが、味があって良いですよ」と竜生さん。
ステンドグラスづくりに触れられるだけでなく、その歴史や文化背景も交えながら、たくさんのことを教えていただきました。
チェリデザインでは、フュージングガラスづくり(※)の体験も可能。小学校低学年ごろから気軽に体験できるそうです。
※フュージングガラス:異なる色や模様のガラスを窯で熱し、溶け合わせて作ったガラス作品。
「せっかくの貴重な建物。こうして開いて多くの人に見て楽しんでいただけたら」という2代目の思いがさまざまにこもった洋館です。
建物見学に、ガラス工芸体験に、ぜひ足を運んでみてください!
■■INFORMATION■■
ガラス・金唐革工房「チェリデザイン」
住所:京都市右京区太秦組石町2-2
TEL:075-864-9566
MAIL:celli@mbox.kyoto-inet.or.jp
HP:http://web.kyoto-inet.or.jp/people/celli/
ステンドグラス体験講座
費用:3,000円(受講料+材料費)、5名以上の場合300円割引
会場:ガラス・金唐革工房「チェリデザイン」
開催日:月によって異なるためホームページを要確認
※前日までに要予約