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紫式部が聴いた音楽「雅楽」に想いを馳せる

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雅楽演奏

皆さんは「雅楽」の演奏を聴いたことはありますか? そう度々は聴かないけれど、お正月や神社の行事、結婚式の際に耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。雅楽は千年以上の歴史を持つ音楽ですが、意外と知らない、知られていないことが多い音楽かもしれません。
そこで今回は、京都市伏見区の藤森神社にある藤森雅楽会を訪問し、指導にあたっている竹若佳代子さんにお話を伺いながら、平安貴族と雅楽がどんな関わりを持っていたのか、ほんの少しだけ紐解いてまいりましょう。
画像提供:藤森雅楽会

千年以上も続く、稀有な音楽「雅楽」

龍的の演奏

画像提供:藤森雅楽会

竹若佳代子さん(写真)によると、雅楽が日本に伝わったのは59世紀頃。
中国大陸から仏教や政治など、新しい文化を取り入れようと遣隋使や遣唐使を派遣した政策の中で、雅楽や舞、楽器も伝わってきました。

アジア地図
実は「雅楽」は中国だけでなく、朝鮮半島やインド、南ベトナムにもあるのだとか。
それぞれの国の特色を持つ音楽が中国大陸を伝って日本に入り、日本に昔からあった神楽(かぐら)歌などと合わさり、さらに日本人好みに洗練され、平安時代に貴族たちがまとめたものが現在の雅楽の基本となっています。それ以降は、ほぼ変わっていません」と竹若さん。
ということは、平安時代の帝や貴族も聴いた音楽が今も聴けるということなのでしょうか。
「そう。雅楽は世界の音楽の中でも最古のひとつといってもよい、千年以上前から伝わる非常に稀有な音楽なんです」

 

貴族の必須アイテム、楽器の演奏

奈良時代は主に儀礼や祭祀で演奏されていた雅楽ですが、平安時代になると天皇や貴族も楽器を演奏するようになります。
折りにふれて合奏をしたり、時には帝の前で演奏することもありました。楽器が演奏できることは貴族にとってステイタスであり、大切な教養となったのです。

『源氏物語手鑑 若菜三』(和泉市久保惣記念美術館蔵

土佐派 『源氏物語』画帖  Tosa School|Scenes from The Tale of Genji|early 17th century|Image via Metropolitan Museum of Art  https://www.metmuseum.org/art/collection/search/670974

もちろん女性も楽器ができることは必須で、特に琴(きん=七弦の琴)、和琴(わごん=日本に昔からある六弦の琴)、箏(そう=十三弦の琴)、琵琶などをたしなみました。
『枕草紙』にも、村上天皇の女御となった藤原師伊(もろただ)の娘・芳子は、幼いころより父に「一には、御手を習ひ珠へ。次には、琴(きん)の御琴(こと)を、人よりことに弾きまさらむとおぼせ。さては、古今の歌二十巻をみな浮かべさせたまふを御学問にはせさせ給へ」と教えられてきたと書いてあります。
つまり綺麗な字が書けること、琴を人より上手く弾くこと、『古今和歌集』を暗記していることが貴婦人の教養として大切だったのですね。

土佐派 『源氏物語』画帖

『源氏物語手鑑 若菜三』(和泉市久保惣記念美術館蔵)和泉市久保惣記念美術館デジタルミュージアムからの引用

もちろん『源氏物語』にも、楽器を演奏する場面がたくさん登場します。有名なのは〈若奈 下〉の帖に出てくる、光源氏に関わる女性4人による合奏の場面です。朱雀院の五十賀(50歳の祝宴)が光源氏の邸宅・六条院で開かれることになり、そこで演奏する女性らによる合奏のリハーサルが行われました。
担当楽器は明石の御方が琵琶、紫の上が和琴、明石の女御が箏、女三宮は琴を担当。そして養女の玉鬘の子に笙を、息子・夕霧の子に横笛を吹かせました。途中からは光源氏や夕霧も歌で参加し、素晴らしく優雅な夜になったとあります。これを読むだけでも高貴な方々はみな楽器の演奏ができることがわかりますよね。

雅楽の音律

雅楽の楽譜ところで、この〈若奈 下〉のリハーサルでは、夕霧が女三宮の琴を調弦(チューニング)してあげています。琴は弦楽器なのでチューニングが必要なんですね。
竹若さんにお聞きしたところ、雅楽の音階は西洋音階と同じで1オクターブ12なのだそうです。ただし現代のようにドレミファ…という平均律ではなく、独自の音階になっています。
そして写真のように、平調、双調といった名前が付いた調子(コード進行)もありました。昔はもっとたくさんの調子があったそうですが、現在、管絃で演奏されるものは6つだそうです。(フラットは数に入れないそう)

 

管絃は世界最古のオーケストラ

雅楽 管弦楽

画像提供:藤森雅楽会

『枕草紙』や『源氏物語』などでは少人数での合奏シーンが多いですが、雅楽の演奏大人数で合奏をするオーケストラのような「管絃」(写真)、舞と一緒に演奏する「舞楽」、それに歌を主とする「歌物」の3つにジャンルが分かれています。
ここでは、その中から「管弦」についてご紹介していきましょう。

笙

篳篥

龍的

「管弦」では管楽器打楽器弦楽器が使われます。管楽器は(写真上より)、パイプオルガンのような荘厳な音がする笙(しょう)メロディを担当する篳篥(ひちりき)主旋律を引き立てる龍笛(りゅうてき)が各3人という三管が基本。

そして、リズム楽器の役割をする箏と琵琶の絃楽器が各2人。

打楽器は鞨鼓(かっこ)太鼓(たいこ)鉦鼓(しょうこ)が各1人という16人編成です。とはいえフルバージョンでなくてもOKで、竹若さんによると「例えば三管が揃えば、琵琶など弦が欠けてても、打ち物が欠けても大丈夫」とのこと。ちゃんと雅楽の曲が演奏できるんですって。

鞨鼓

ところで不思議なのは指揮者がいないこと。どうやってリズムを決めているのでしょうか。
「雅楽の管絃ではオーケストラのように指揮者がいないんです。その代わり演奏の速度を決めたり、終わりの合図を出したりするのが鞨鼓(写真)。ですので、様々な楽器を演奏したことがある経験豊富なベテラン奏者が担当することが多いですね」

演奏会をする場合は最初に“音取(ねとり)”と呼ばれる短いチューニング曲が演奏されます。オーケストラでも演奏の前に“ラ”の音でチューニングが行われますが、それと同じこと。筆者的にはこの音楽がとてもカッコいい!と思っております。 これから演奏が始まるぞという気分を高めてくれるのです。

今回は特別に練習中に演奏者の中に入らせていただき、演奏を聴かせていただきました。曲目は有名な『越天楽』です。これが大感動! 笙の音色は天からさしこむ光、篳篥は地にこだまする人の声、龍笛は天と地を結び空を舞い立ち昇る龍を表すと言われていますが、まさにその通り! そこに太鼓がズン、ドゥ、鉦鼓がチチンと鳴り、鞨鼓がカッカッカッと響き、天界の音に包まれるようです。 

 

雅楽からきたことば

笙

ところで現在、私たちが使っている言葉で雅楽から来た言葉もあるんですって(諸説ありますが)。

笙

例えば物事のポイント、要点という意味の “コツ” という言葉の由来となった楽器はなのだとか。笙は17本の竹を組んだ楽器ですが、その1本1本に「千」「言」など名前が付いていて、その一つが「乞(こつ)」なのです。この乞音を出すのが大変、難しいそうで、そこから“コツ”と言う言葉が生まれたのだとか。
その他に“野暮”や“序の口”など、いろいろあるそうですよ。面白いですね。

いかがでしたでしょうか。藤原道長や紫式部、清少納言たちが聴いた音楽と同じものを聴いていたと知ると、雅楽がまた違ったものに感じます。
日本人は何でも吸収して、その中から良いころを取って、さらに洗練させていくのが上手い民族なんですね。そしてそれを変化させずに大切に伝えていくのも得意なのです。大陸では途絶えてしまったけれど、日本に残っている曲もあるんですよ。そういうところにも雅楽の価値がありますね」と若竹さん。
雅楽を耳にする機会があった時、そんなところも感じながら、ぜひ聴いてみてくださいね。

◾️◾️取材協力 ◾️◾️
藤森雅楽会
京都府京都市伏見区深草鳥居崎町609
075-641-1045
(藤森神社)

 

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