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平安時代にめでられた草花~源氏物語から読み解く植物~

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源氏物語に登場する植物イメージ画像

画像提供:京都府立植物園

季節の移り変わりや、日常にそっと彩りを添えてくれる、私たちの生活にも身近な草花。その美しさは古くから人の心に影響を与えてきたものであると考えられ、さまざまな文学作品に登場してきました。そのひとつに、平安時代に書かれた『源氏物語』があります。
今回は源氏物語に登場する植物に注目してみました。

『源氏物語』と植物

光源氏の邸宅「六条院」のジオラマ画像

『源氏物語』は、平安時代中期に紫式部によって書かれた日本最古の長編物語です。
平安時代の宮廷を舞台に、美貌と才能に恵まれた主人公「光源氏」の恋愛、栄華、苦悩、そして子孫の人生を描いた全五十四帖の中には、物語に欠かせない要素のひとつとして多くの「植物」が登場します。その数なんと100種類以上。なぜ、こんなにも植物が描かれているのでしょうか?

物語が描かれた平安時代は庭園様式が確立され、貴族たちの自然観が深まっていった時代でもあります。
源氏物語の帖名や登場人物には草木の名前が使われていることや、それらの植物が人物像に深く関わっていることからも、その様子をうかがうことができます。
また、光源氏も四季の自然美に対する造詣が深い設定で、広大な寝殿作りの邸宅である六条院に一町ずつ、それぞれ春夏秋冬の趣向を凝らした四町に姫君たちと住んでいました。

松と紅葉画像

物語に登場する中で最も出現回数が多いのは松と紅葉。続いて山吹と続きます。
(平安時代の季節は太陰太陽暦が使われていたため、現在と1か月程度のずれがあります。)
京都府立植物園には、源氏物語に登場する植物が数多く植えられており、年間通してさまざまな植物を観賞することができます。その一例をご紹介しますね。
※栽培管理等で観賞できない場合もあります。

フジ

藤の花画像

画像提供:京都府立植物園

4月下旬から5月上旬に長い花序を垂れ下げて咲くフジの花。平安時代では帝が日常を過ごす「内裏(だいり)」とは別に、妻たちが住む「後宮」があり、身分によって住む建物が決められていました。その中の飛香舎(ひぎょうしゃ)には南面の壺にフジが植えられていたことから別名「藤壺」と呼ばれており、桐壺帝に入内した藤壺の名は飛香舎の主となったことから呼称されました。

サクラ

ヤマザクラ画像

画像提供:京都府立植物園

現在サクラの種類は数百種ほどありソメイヨシノが一般的ですが、平安時代では主にヤマザクラのことを指します。源氏物語にも数多く登場しますが、ヤマザクラの他にはカバザクラやヤエザクラなどが登場しています。物語の中では光源氏の最愛の女性であった「紫の上」の美しさの表象として用いられることが多いようです。

ムラサキ

ムラサキとムラサキの根画像

画像提供:京都府立植物園

6月から7月頃に咲くムラサキは、白く小さい花をつけて咲く多年草です。根は紫根と呼ばれ、紫色の染料として使われていました。日本では古くから紫色は高貴な色として尊ばれており、薬用としても利用価値が高いムラサキは馴染み深い植物として平安時代の和歌にも多く詠まれています。

アサガオ

アサガオ

画像提供:京都府立植物園

現代では観賞用として親しまれているアサガオですが、日本原産の植物ではなく、奈良時代に中国から渡来し薬草として用いられていました。光源氏から求愛されながらも一度も関係を持たず、独身を貫き通した「朝顔」の呼称でもあります。

モミジ

モミジ画像

画像提供:京都府立植物園

京都の秋を彩る美しい植物として欠かせないモミジ。源氏物語では松と並び最も登場回数が多い植物のひとつです。物語に登場するモミジはイロハモミジを指しています。物語の第一部七帖「紅葉賀」では、朱雀院行幸の際、小高き紅葉の陰で青海波を舞う光源氏の様子が描かれています。
 
紅葉について詳しい記事はこちら▼

キク

キク画像

画像提供:京都府立植物園

9月から11月頃に花を咲かせるキクの花。万葉集でキクの歌が詠まれていないことから、平安時代に愛でられたキクの種類は、奈良時代に中国から渡来した薬用のキクと考えられています。当時、キクは長寿・延命を願う植物として9月9日に行われる「重陽(ちょうよう)の節句」などの宮中行事に用いられており、貴族にとって重要な植物のひとつであったことがうかがえます。

ツバキ

ツバキ画像

画像提供:京都府立植物園

現在では数多くの品種が存在するツバキですが、源氏物語の時代には栽培変種のツバキがなかったため、主にヤブツバキを指しています。物語の中でツバキの花自体の用例はありませんが、「若菜上」の帖では六条院で行われた蹴鞠の後に「椿餅」が振舞われていまます。

ウメ

ウメ画像

画像提供:京都府立植物園

奈良時代に中国から渡来したウメ。古くは白梅を指しましたが、平安時代には紅梅が好まれました。都が平安京に移ると紫宸殿には右近のタチバナ、左近のウメが植えられていましたが、後の消失によりサクラに植え替えられました。第1部の「梅枝」には六条院の春の町の紅梅が見事であったことが記されています。

源氏物語に登場する植物。ただ、そこにあるだけで私たちの心を潤してくれる植物ですが、物語に登場する場面をイメージすると、また新たな印象が生まれてくるかもしれませんね。
2024年はNHK大河ドラマ「光る君へ」が放送されることからも平安時代に注目が集まりそうな年。この機会に源氏物語とその植物に注目してみませんか?
 
源氏物語を「ザックリ知りたい!」という方はこちら

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◾️◾️記事監修◾️◾️

京都府立植物園

◾️◾️参考文献◾️◾️

『ビジュアルワイド 平安大辞典 図解でわかる「源氏物語の世界」』(倉田実 編/朝日新聞出版)
『京都府立植物園でみる源氏物語の植物』パンフレット

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